10. 佐喜眞美術館 | 太平洋戦争の足跡と平和への祈り
【佐喜眞美術館の概要】
佐喜眞美術館は、館長・佐喜眞道夫氏が米軍基地に接収されていた祖先の土地を取り戻し、丸木位里・丸木俊夫妻の共同制作『沖縄戦の図』を常設展示するために、1994年に沖縄県宜野湾市に開館した私設美術館です。 美術館建設前から佐喜眞館長が集めていた国内外の作家コレクションを貫くテーマは「生と死」「苦悩と救済」「人間と戦争」です。 主要なコレクションに、上野誠、ケーテ・コルヴィッツ、ジョルジュ・ルオー、浜田知明、草間彌生などがあります。 静かで厳かな空間に身を置き、作品と向き合うことで、戦争の悲惨さを実感し、平和の尊さについて深く考える時間を過ごすことができる特別な場所です。
【戦争の記憶と向き合う――《沖縄戦の図》の世界】
最も広い第三展示室に常設展示されている「沖縄戦の図」(4×8.5m)は、画家・丸木位里(まるき いり)・丸木俊(まるき とし)夫妻によって描かれた、地上戦の沖縄戦を主題とする連作の大作です。 沖縄戦を実際に体験した人々の証言をもとに、約6年の歳月をかけて完成されました。夫妻は埼玉から何度も沖縄を訪れ、沖縄本島北から南、慶良間諸島、久米島、伊江島、石垣島などを巡り、壕(ガマ)や集団自決の現場、当時を知る住民に取材を重ね、体験者の「声なき声」は「かたち」となり、記憶から記録へ、そして歴史となり観る者を圧倒する作品となりました。
作品には、地上戦に巻き込まれた住民の姿が強烈な筆致と色彩で描かれています。爆撃の下で逃げ惑う家族、壕の中で息をひそめる子どもたち、命を奪われた人々、追いつめられて自ら命を絶つ住民など。それは決して遠い過去の出来事ではなく、「人間が戦争によってどのように壊されていくか」という普遍的な問いを私たちに突きつけます。
【多彩なテーマに出会える、期間限定の企画展】
佐喜眞美術館では、常設展示以外にも第一、第二展示室では期間限定の企画展や特別展示が行われ、年2~3回の展示替えを行っています。これらの展示では、県内作家や現代美術作品なども紹介されています。美術館のテーマに繋がる芸術を通して人間の尊厳と命の意味を問う空間です。 訪れる際は、常設展示だけでなく、これらの多彩な作品にもぜひ注目してみてください。
【建築そのものが「祈り」と「記憶」をつなぐ空間】
佐喜眞美術館は、沖縄の建築家・真喜志好一氏の設計による重厚なコンクリート建築です。沖縄の伝統や祈りを意識し、動線や光の設計には戦争の記憶と平和への願いが込められています。 屋上からは隣接する米軍普天間基地、目の前に広がる海、左手には慶良間諸島、右手には北谷町、嘉手納町、読谷村の西海岸が見えます。 沖縄戦当時、米軍はまず慶良間諸島を占拠し、その後読谷村を中心とした西海岸から上陸してきました。 美術館全体が「記憶をつなぐ空間」となっています。建築そのものが静かに過去と向き合い、未来を思索する時間を与えてくれます。
【慰霊の日の夕陽が射す、平和を象徴する階段】
特に象徴的なのが、毎年6月23日「慰霊の日」の夕陽が、屋上に設けられた階段の最上段(6段と23段)に差し込むよう精密に設計されている点です。この設計には、沖縄戦で命を失った人々への鎮魂の祈りが込められており、美術館全体が建築そのものを通じて「平和を祈る場」として機能するよう意図されています。